英訳版キノについてのまとめ



とりあえず発売してから一月ほど経ったので、ぼちぼち解説でもしていこうかと。
英訳版とはいえ、話の大まかなラインには(当然だが)変更はないので、ここでは話の解題というよりはむしろ日本語版の原作と英訳版との差異について語っていこうと思う。
いつものようにネタバレを含むので、Kino No Tabiを未読で、これから読む予定のある方は注意。「英語だとココはどうなってるのか」とか、そういった興味を抱く方を主な対象として書いていくつもりなので。


ちなみに、以下Kino No Tabiと表記する場合は英訳版、『キノの旅』と表記する場合は日本語版をそれぞれ指す。基本的に、英題で示したものに関しては英訳版を、邦題で示したものは日本語版を指していると判断して頂きたい。




Kino No Tabiの各話のタイトルについて

英訳版における各話のタイトルを次に列挙する。( )内は原題。

・Prologue (森の中で・b)
・Grownup Country (大人の国)
・The Land of Shared Pain (人の痛みが分かる国)
・The Land of Majority Rule (多数決の国)
・Three Men on the Rails (レールの上の三人の男)
・The land of Peace (平和な国)
・Coliseum (コロシアム)
・Epilogue (森の中で・a)


なお、『キノの旅』で副題として付けられていた英語のタイトルは一切出てこない。


登場人物・固有名詞など

『キノの旅』では独特の世界観を醸成するために一役買っていた固有名詞や名前の数々が、Kino No Tabiに於いてどのように表現されているか、次に挙げてゆく。( )内は『キノの旅』に於いての呼称。

人名
・Kino (キノ)
・Hermes (エルメス)
・Shizu (シズ)
・Riku (陸)

固有名詞
・Motorcycle (モトラド)
・Gun / Rifle (パースエイダー)
・Hovercraft (ホヴィー)


意外と素っ気無い訳がなされているが、パースエイダー(Persuader)などの語が英語圏の人間にとってはまた違ったニュアンスで受け取られる可能性もあるので、これは賢明だったかもしれない。


訳者からの挨拶として冒頭に掲載されている文章

This English edition is presented as a linear narrative. We join with Keiichi Sigsawa in bidding you happy reading.

この英訳版は、長編として編集されています。時雨沢恵一氏とともに、我々は喜びに満ちた読書へとあなたをお誘いします。


――この一文からも分かるように、Kino No Tabiは『キノの旅』のレイアウトをそのままに英語へと翻訳するというものではなく、一つのまとまった話として読むことが出来るように再構成されている。Linear narrativeについては日本語の定訳が存在しないようなので単に『長編』と訳したが、敢えて忠実に訳せば「時系列通りにエピソードを並べた物語」とでも言えるだろうか。『キノの旅』が各話間の時系列を意図的に前後させている(Non-linear narrative)のに対し、Kino No Tabiでは読みやすいようにきちんと再構成されているのである。
ただ、ここで言う「再構成」という作業が、単に話の前後を入れ替える作業に終始した訳ではないことを付け加えておかなければならない。
詳しくは、次回からの各話の解説で述べることにする。



戻る  次へ