キノの旅を二倍楽しむために
ここでは主に『キノの旅』に登場するさまざまな物に関する四方山話を並べています。
単なる用語辞典の体裁を呈してはいるものの、これを読んでから『キノの旅』を再読するとまた違った楽しみ方ができるのではないかと思う。たぶん。
なお、この文章は『キノの旅』の一部或いは最新刊までの既読者を対象に書かれており、それ以外の方が読むとネタバレの危険があるため、注意が必要。仮に二倍楽しめなかった場合にも返金などのご相談には応じかねます。
また項目の隣には初出個所を示したが、誤認を避けるため原作のローマ数字表記から漢数字表記に変えてあります。
Special Thanks(順不同・敬称略)
皇翼、松谷、IUPAC、13番、烈、タルト、ディープスロート、月宮、ハサハ、ならびに助言を戴きました皆様。
学園キノに登場する用語等は別ページにあります
武器・銃器など
乗り物など
人名について
その他小物・小ネタ
武器・銃器など
「パースエイダー」 >一巻P17
『キノの旅』作中に於いては銃器全般を指す言葉。英語のpersuaderが元になっており、「説得する物」転じて「武器」と言った意味合いを持つ。
また本編中でも“ 説得する”という台詞が何回か使われるが、これは「戦う」などの意味があると思われる。
「カノン」 >一巻P17
キノの主力武器。
モデルはアメリカはコルト製M1851パーカッション・リボルバー。当時の米海軍が採用した事から、「コルト・ネービーモデル」とも呼ばれる。が、実際には陸軍も使用していた。「Navy51」などの名称は俗称。
作動方式はシングルアクションのみで、近年のリボルバーに見られるようなスイングアウト機構やローディングゲート等は一切ない。そのため、再装填にはフレームからバレル部分を分離させた後、シリンダーを取り出す必要がある。
またこの銃にはバレル下にローディングレバーという部品があり、これを押し下げるとレバーと連動した棒がシリンダー内に入り、詰めた弾丸を奥まで押し込むようになっている。一巻『コロシアム』ではこのレバーを下げて、自動小銃などに見られるフォアグリップの役目を持たせた。
実在するM1851は36口径だが、キノの使っている物は44口径。これは考証のミスという事ではなく、スペインや南部アメリカなどでコピーされたM1851には44口径のものも少なからず存在したという。
『カノン』という名称についてはさまざまな解釈があるが、おそらく銃自体が大口径である事から「大砲(cannon)」という意味で付けているようだ。
余談だが、イラストや挿絵で描かれている『カノン』は、コルト社のモデルでいう第三世代のもの(シリアルナンバー4201〜85000)に相当し、バレルは7 1/2インチ、グリップは黒檀のような黒っぽいものが装着されている(通常は木目が判別できる程度に明かるい色の木製)。これはイラストを描く際に某社のモデルガンが参考資料にされたためと推測される。
「森の人」 >一巻P16
キノの補助武器的な存在。マレー語で「森の人」を示す「オランウータン」とは特に関連はない。
モデルとなったのはコルト製ウッズマン・マッチ・ターゲットモデル。名前の由来は「ウッズマン」からか。22口径、装弾数10発。
キノの使用するモデルは全ての部品が左右逆に設計されており、左手で扱う事を前提に作られている(実際にこうしたモデルが存在するかは不明。多分ない)。またマガジンキャッチがグリップ下部に装着されたコンチネンタル・タイプではなく、トリガーガード脇に配置されたボタン型のものである事から、実銃に照らし合わせると生産時期は1947年後期から1977年(俗に言われる第二世代、第三世代モデルの時期)である事が分かる。
ちなみに、銃口は少しだけはみ出しており、その外周にはサイレンサー装着用のネジが切ってある。また、レーザーサイトが装着可能なようだが、具体的な取り付け方法は不明。おそらくバレルウェイトを挟み込むようにする専用マウントがあるのだろう。
「謎リヴォルバー」 >一巻P72
一巻「多数決の国」で、国家元首のおじさんが鞄から取り出した銃。
十六連発とかシリンダーが二つとか中折れ式のフレームだとか色々と面白い構造のようだが、そうしたリヴォルバーは見たことがなく資料もないため、現在は説明不可。著者オリジナル?
誰か情報をお持ちの方がいらっしゃればご教示お願いします。
「モシン・ナガンM1891」 >一巻P127
一巻「コロシアム」にて、二日目二回戦でキノの相手となった女性が使用していたパースエイダーのモデルとなった銃。
後半ピダーセンデバイスの様な装置を用いる事から一部ではアメリカ製のM1903ライフルだと言われているが、本編の描写などを見るとモシン・ナガンの方が近いと思われる。
旧ソ連製で装弾数は5発、口径は7.62mm。同世代のKar98kなどのライフルと比べるとやや設計や工作精度に劣るものの、当時としては平均的な性能をクリアしていた。特に遠射での射撃精度や威力減衰率の低さなどは優秀だったという。
また先にも述べたが、戦闘の後半で女性は部品を組替えてこのライフルを半自動式に変える。この装置のモデルとなったのは同じくボルトアクション機構のM1903を半自動式に変えるためにアメリカが開発した「ピダーセン・デバイス」だと思われる。
ピダーセン・デバイスは遊底や装弾機構と弾倉をまとめたもので、M1903のボルト部分と換装する事で自動式となる。これを装着した状態では通常の弾は使えず、30カービン弾という少し小さな弾を使う事になる。
モシン・ナガン用のピダーセン・デバイスについては、1900年代初頭にレミントン社が極少数のみ試作したという記録が残っている。他にもフランスやイギリス向けのバージョンが試作されたそうだが、「ボルトアクションライフルを自動化するコンバーションキット」というコンセプトは受け入れられなかったらしくいずれも試作のみに終わり、その後ピダーセンデバイス自体が姿を消すことになる。
「刀」 一巻P139
一巻「コロシアム」にて初登場したシズ様の主力武器。日本刀。言わずと知れたサムライセイバー。「カタナ」というと大抵これを指す。
外見は片刃の打刀のように見える。戦国時代以降に見られる典型的な「刀」である。
鍛造をメインとした製法による良質な素材の使用や、炭素含有量の異なる鋼材をサンドイッチした独特の三層構造など他の文化圏の刃物には見られない特徴が多い。そのため「よく切れ、曲らず折れない」という刃物としては最高の性能を持っている。
とはいえ、刀身で銃弾を弾くという芸当は流石に無茶だと思う。
「ゲパードM1」 >二巻巻頭カラーページ
二巻「狙撃兵の話」にて、謎の狙撃手が使っていた銃。50口径の対物ライフルで、本来は人に向かって撃つものではない。
50口径などの大口径ライフルが狙撃に向く理由としては弾頭重量が比較的重いために風による弾道の誤差が減少する事や、口径に比例して装薬量が多いために初速が高く着弾までに「先読み」する時間差が少なくて済む、また対人兵器として使用した場合にダメージが大きいため、頭以外の部位に命中させても致命傷を負わせる事が可能であるなどがある。
この銃には弾倉などがなく、また気の利いた再装填機構も備えておらず、一発撃つごとにバレル基部を分解して排莢・装填を繰り返さなければならない。
「サイレンサー」 >二巻P17
他の作品にも何度か登場するが、実際に使用されたのは二巻「人を喰った話」が最初。銃器の発射音を減衰させる装置のこと。他に「サプレッサー」または「発射音抑制器」と書かれている場合もある。
銃器の発射に伴う大音量は、燃焼ガスが銃口から一気に吹き出る事により発生する。サイレンサーとは銃身の先端に装着し、その内部空間で銃身から出た燃焼ガスを滞留させて噴出する量を抑制する。しかし内部で燃焼ガスが対流するために弾道に影響を与えやすく、通常は予め定められた方向へ燃焼ガスを導く「バッフル」という内部構造が採られている事が多い。
『森の人』に使われるのはハーモニカ型のサイレンサーだが、これに相当するモデルは見たことが無い。
『フルート』に使用されるのはオーソドックスな円筒形のサイレンサー。消音効果は高そうだが、初速が音速を超えてしまっているために弾丸自体の衝撃波が起こす音までは消せていない(五巻P77中ほど参照)。あくまで自らの位置を欺瞞するだけのようだ。
「コマンダー」 >二巻P37
キノが持つナイフのうちの一つと推測される。二巻「人を喰った話」で登場した。
メーカーはアメリカのエマーソン社。ガチ戦闘用の堅牢極まるナイフばかりを作っている会社である。ポーチから引き抜くと自動的に刃が開くというシステムは、エマーソン社が特許を取っている「ウェーブ」というシステム。ナイフのグリップを逆手に持ってポケット或いはポーチから引き抜くと、刃の峰側に付けられたフックがポケットの縁に引っかかって刃が開くという仕組み。
ちなみに「ウェーブ」が搭載されたモデルは「コマンダー」以外にも「CQC-7」や「カランビット」、「サーク」と言ったものがある。敢えて筆者が「コマンダー」であると推測したのは……ウェーブを最初に搭載したモデルだったから(それだけ?)
キノが持つナイフは他にもあるが、モデルがある程度推測できるのは今のところこれとナイフ・ピストルのみ。
「ナイフ・ピストル」 >二巻P38
二巻「人を喰った話」でキノが窮地を脱するために使った秘密兵器。
ナイフ・ピストル自体はいくつか数が作られているが、おそらくキノが使ったのは中国はノリンコ社製の八七式がモデル。
グリップに4発装填できるが、キノは3発しか込めていない。その理由はわからないが、このナイフは本来レーザーサイトが装備されていない。にも関わらず、作中ではレーザーサイトを使って照準した描写がある。つまり、薬室の一つにはレーザーサイトを詰める加工を施してあるのかもしれない、という事で納得がゆく。
22口径、『森の人』と同じ弾薬を使う。
「レ・マット」 >二巻P140
二巻「帰郷」で、シュヴァルツが持っていたリボルバーのモデル。Le Mat。「ル・マット」とも。
『カノン』と同じくパーカッション式のはずだが、簡単に弾丸を抜き取る描写がある事から後に金属薬莢式に改良された後のモデルなのかもしれない。口径はバリエーションが存在し、通常の弾薬が42(資料によっては40)口径または35口径、散弾は50口径(他にも16番、18番径が存在した?)。この銃はシリンダーの軸がパイプ状になっており、それが散弾のバレルとして使えるようになっている。本編でもここから弾丸を抜く描写がある。通常弾と散弾の撃ち分けはハンマーに内蔵されたハンマーノーズの位置を変更することで行う。
装弾数は通常弾が9発、散弾が1発。
特に射撃する場面などは出てこず、あまり華のないパースエイダー。
「P2340」 >二巻P167
時雨沢先生のペンネームの由来、シグ社が開発した自動式拳銃。正式名称SIG PRO2340。
「本の国」で青年が家から持ち出してきた。本編では「二三四〇型」と表記されている。
また、ウィルコックス製と思われるレーザーサイトをアンダーマウントに固定しており、初心者が使うにはそれなりに適したモデルと言える。
40S&Wという種類の弾丸を使うが、この弾丸はあまり有名ではない。「この種類なら、弾薬はどこでも扱っている」とキノは言っていたが、あの世界では、40口径が主流なのだろうか。
「コルトM1917」 >二巻P188
二巻「優しい国」で、パースエイダースミスが『カノン』を修理する際にキノに渡したリボルバー。通常リボルバーは弾丸後部の縁(リム)が出っ張った弾を使うが、これは自動拳銃用の45ACP弾をハーフムーンクリップ(本編では「半月クリップ」)を利用して発射する。
元々は米軍が正式拳銃をM1911に改変した際に不足分を補うために採用された拳銃で、M1911と弾丸に互換性を持たせるために45口径を使うようにした経緯がある。
本編では特に活躍することはなく、ホルスターの『重り』として使われた。
「スライド・ロック」 >二巻P194
『森の人』に附属した部品の一つ。「人を喰った話」でも使用されているが、名称が出てきたのは「優しい国」が初。
スライド・ロックとは名前のとおり遊底(スライド)を固定する部品のことで、スライドの前後動に伴う作動音を消す事を目的としている。サイレンサーと併用することにより、射撃に伴う音はほぼ皆無となる。
なおスライドを固定するのに伴い、自動装填機構はオミットされる。そのため次弾を装填するためにはスライド・ロックを手動で解除し、スライドを手で動かしてやる必要がある。
「VP70」 >三巻P185
三巻「終わってしまった話」にて、まだ若い頃のイーニッドが使っていたパースエイダーのモデル。実銃はものすごくマイナーな機種だが、某有名ゾンビゲームの二作目にて男主人公が使った事から一躍有名となった。H&K社製。装弾数18発。口径9mm。
またこの銃にはオプションとしてホルスター兼用ストックがあり、これを装着してストック側に付けられたセレクターを操作すれば、この銃は三発連続発射機能を持つようになる。作中でもこれを使って三連射をする描写がある。
「ロケット弾」 >四巻P98
「分かれている国」にて、住民が狩猟をする際に使用した兵器。外見の描写からするとRPG系列の対戦車ロケット砲によく似ているように思われる(ショルダーレストに関する描写がない所を見るとRPG-2が近い?)
RPG(キリル文字表記РПГ:Ручной Противотанковый Гранатомёт〔携行対戦車擲弾発射器〕の略称)は作中の案内人の解説にもあるように装甲目標を撃破するために開発されたものだが、実際には汎用性の高さと比較的安価な価格のために迫撃砲の代用として使われる事も多かった。ただ、実際に象や鯨をこれで仕留めたという事例は聞かない。
米軍によるテストデータによると、静止目標に対する初弾命中率は50%を割るという結果が出ている。本編中でどれほどの距離から射撃したのかは定かではないが、本気で逃げる動物に一発目で命中させるのは国の住民達の長い狩猟生活が為せる技だろうか。
鋼板貫徹力は250〜300mm。クジラの頭を霧に変えるくらいワケない。
「フルート」 >五巻P59
キノの持つライフル。これを所持している話は「英雄達の国」以降に限定され、時系列を整理する上で有益な小道具のひとつ。
本文中の僅かな記述から「装弾数9発、前後二つに分解できてスコープ・消音器を装着可能。ボルトオープン機構付き」の自動式ライフルだとまでは想像できるものの、正確なモデル特定には至らなかった。
が、後に発売された『キノの旅 デスクトップアクセサリー』の各巻解説で二式テラ銃をモデルにしたという作者本人の注釈があり、『フルート』のモデル(或いはモチーフ)は二式テラ銃と確認された。
二式テラ銃は旧日本軍で空挺部隊用に作られた前後二分割できるボルトアクション式のライフルで、“テラ”は開発時の「鉄砲・落下傘」の頭文字をコードネームとしたもの(他に「挺身落下傘部隊」の略であるとする説も 情報提供:松谷様並びに皇翼様)
自動式でもないしスコープも付かないようだが、前後二分割というギミックが時雨沢氏に受けたのだろう。『フルート』は前後二分割という二式テラ銃の特徴を踏襲しつつ、自動式の簡易狙撃銃という作者オリジナルのライフルとなったわけである。
『フルート』という名称の元ネタは不明だが、映画『山猫は眠らない』でビリー・ゼイン扮するリチャード・ミラーが、手にしたケースの中身(分解した狙撃銃が入っていた)を「フルートだ」と冗談を言うシーンがあったので、もしかしたらそれが元になったのかもしれない。
ちなみにこのライフルは「英雄達の国」において「五二式国民ライフル分解型」という正式名称を付与されていた。「国民ライフル」は第二次大戦末期にドイツで開発されたVolksgewehr(国民小銃)が元か。
分解方式だが、作中の記述を見る限り、『フルート』にはライフルの前後を同一軸線上に差し込んで固定する機構が採用されている様子。この手の固定方法にはバヨネットスクリュー方式、クロスボルトキー方式などが存在する。二式テラ銃ではクロスボルトキー方式が採用されていたが、固定部分の精度・強度に問題があるとされていた。その精度を鑑みるに、『フルート』にはバヨネットスクリュー方式が採用されているのかもしれない。
余談だが、自動小銃は基本的に発射時の装薬燃焼ガスの圧力を銃身から機関部までバイパスする必要があるため、前後二分割という『フルート』の構造ではガス流路を設けるのが困難だと思われる。接合部に見事な工夫が凝らされているのか、或いは(非常に危険だが)反動利用のボルト閉鎖システムを採用しているのかもしれない。
「九九式小銃」 >五巻P61
五巻「英雄達の国 -No Hero-」で男達が持っていた小銃のモデル。
旧日本軍の小銃でボルトアクション式、口径は7.7mm、装弾数5発。
作中でもやはり旧式という感が否めないが、照準眼鏡(平たく言えばスコープ)付きのものや小銃擲弾を使う描写があるなど、この作品は銃器が好きな大きな少年たちにとって楽しめる内容となっている。
小銃擲弾は(本編では『グレネード』と表記)正式名称を百式擲弾といい、銃口部に発射器を取り付けてグレネード弾の信管を木製の弾頭で叩いて撃発させるスピゴット方式。
ちなみにこの木製弾頭は訓練用の空砲としても利用され、米軍に鹵獲された時には「日本人は鉄が無くて木まで使ってやがる」とか言ったとか言わなかったとか。
「G36」 >六巻P19
六巻「彼女の旅(鬱編)」にて、殺されてしまった男が持ってたライフル。
現ドイツ軍用ライフルで、従来のG3ライフルよりも小口径化・ローコスト化を図られている。口径は5.56mm、装弾数は30発。
このライフルにはブリッジ部分にピカティニー規格のマウントレールを装着しており、スコープやその他のオプションが付けられるようになっている。男はここにレーザーサイト付きのスコープを搭載していた。
ちなみに、そのスコープはキノに持ち去られている。
「Mk23」 >六巻P47
六巻「彼女の旅(「好きだからさ」編)」にて男が持っていたパースエイダーのモデル。
実銃は合衆国統合特殊作戦群(SOCOM)からの依頼でドイツH&K社が開発したもの。オプションの装着を前提に設計されており、サイレンサーや各種光学照準器が装着できる。45口径、装弾数12発。“Mk23”という名称は“ハッシュパピー”の愛称で知られるスミス&ウェッソン社のMk22 Mod.0の後継機種になる事を狙って付けられたとか。特殊部隊御用達の拳銃として知名度は高いものの、実際にはそのサイズが敬遠されて、最終生産数が2000に満たないうちに納入が停止された。
本編中では何も装着されていない状態で使われている。だが弾倉が延長されて装弾数が増やされていたり、「彼女」に気付かれずに追手を倒す描写からサイレンサーも使用していると思われる。
「M2重機関銃」 >六巻P85
六巻「長のいる国」にて師匠が使った銃のモデル。
口径は12.7mm。これは本来装甲車や戦闘機などを撃つ為の銃で、徹甲弾や焼夷徹甲弾、APDS弾(サボ付き貫徹弾)などの弾丸を使う。
またこの銃は射程が長く、直進弾道を維持しやすい為に長距離でも精密な射撃が可能。朝鮮戦争やフォークランド紛争では実際に狙撃銃として使用された事もある。
本来この銃は全自動式だが、ブリーチと呼ばれる部品をロックする事によって単発・クローズドボルト方式で射撃する事が出来る。師匠もこれを使って一発ずつ狙撃したようだ。
ついでに言うと、ジュネーブ条約ではこの種の大口径銃を対人目的に使用する事に関して自粛が求められている(と解釈されうる条文がある・ジュネーヴ条約第一追加議定書第35条)
師匠――。
「グロック」 >七巻P84
七巻「冬の話」にて、キノが病人の安楽死に使った銃。作中の描写ではS&W社製のシグマシリーズ(特にSW9VE)も候補に入るが、どちらかというとグロックのような気がする。第一シグマはグロックのパクリ
グロックには数多くのバリエーションがありモデルを特定する事は難しいが、恐らくグロック17かグロック34であると思われる。
後期型ではなく初期型或いは第三世代のレイルドフレームを装備したモデルで、作中ではこれにレーザーサイトを付けている。
オーストリア製。口径9mm、装弾数は17発。
「MG42」 >七巻P180
七巻「何かをするために・a」で師匠が木を切り倒すのに使った軽機関銃。作中では「新型の全自動連射式パースエイダー」と称されている。
1942年にドイツで開発され、毎分1200発という発射速度による独特の発射音から「ヒトラーのノコギリ」と渾名され連合軍から恐れられた。師匠が木を切り倒すのに使ったのは、その渾名と掛けた洒落のつもりか。
本編中では三脚架と組み合わせて使用されているが、これは「ラフェッテ(砲台)」と呼ばれるMG42専用のアクセサリー。ラフェッテは鉄パイプを組み合わせた折畳式の三脚架で、展開方法により三種類の設置方法が選択できる。作中では高射撃姿勢対応の設置法がとられているようだ。
また照準器も取り付けられており、恐らくMGZ-34(Maschinen Gewehr Zieleinrichtung:銃機関銃用照準器の略称)かMGZ-40と推測される。これらの照準器は銃本体ではなく三脚架に設置され、射撃時の振動から受ける影響を極力少なくしている。
設計されてから60年ほど経ってはいるが、現在のドイツ連邦軍やヨーロッパ各国に於いて多少の改修を施されただけで未だ現役であることからも、その基本設計の優秀さが伺える。
「夜間暗視装置」 >八巻P32
世に言うナイトヴィジョン。光増幅管と呼ばれる特殊な部品により光を電気的に増幅、結果として暗闇でも物体がハッキリと見えるようになる。
夜間暗視装置の起源は古く、ドイツが第二次大戦中に開発したカール・ツァイス社製ZG1229『ファンピール』にまで遡る。当時は赤外線投光器と赤外受像装置を用いたアクティヴIR方式で、本体とバッテリーで数十キロに達する代物だったが、技術の進歩した現在では光量増幅方式を用いて作中のような小型化が可能になった。
作中に登場するのはAN/PVS-14か、それに類する単眼ナイトヴィジョンがモデル。単眼式は双眼式に比べ距離感が分かりにくくなるものの、開いている方の目でナイトヴィジョンの死角に注意が向けられるというメリットがある。特にナイトヴィジョンは辺縁視(広く見渡す能力)が制限されるために、広範囲に注意を向けなければならない場合は単眼式の方がよいとされている。
「M1897」 >八巻P174
八巻「船の国」にて、黒装束に身を包んだキノが持っていた散弾銃。本文中にはそれと推測できるような記述はないが、『電撃p』に掲載された「キノの旅第四部・学園編第二話「気になるアイツは転校生だワン!」 -Before Dog Days-」のP36にてそれらしい事が書かれていた。
口径は12番径、装弾数は五発。三発以上装填できるショットガンとしては古い部類に入る。俗に「トレンチ・ガン(塹壕銃)」と呼ばれるようだ。
ちなみに、M1897は民間モデル。主に「トレンチ・ガン」と呼ばれるのは、銃身被覆と着剣装置を備えた軍用モデルのM1917である。
本編中では国から借りて使っているようだが、愛着のない道具のせいか、キノはこの銃が不利と悟るや否や容赦なく放り捨てた。そのため、一発撃った以外は特に目立った活躍はしていない。
「閃光手榴弾」 >八巻P186
またの名をスタングレネード。通常の破砕手榴弾などと異なり、閃光手榴弾は作中の言葉を借りれば「スプレー缶のような」形をしている。外殻が砕け散らないため、使用後は再利用可能となっている。
4秒ほどの遅延信管を装備しているようだが、通常の閃光手榴弾は約1.5秒。遅延信管は交換できるので、もしかしたら通常の手榴弾用の信管が使われているのかもしれない。
作中でも説明されている通り非致死性の兵器で、約250万カンデラの閃光と約180デシベルの大音響を発して対象を無力化させる。要は相手を驚き竦ませるビックリ箱で、その隙を突くための道具。対象を殺さずに捕縛したい場合や、人質がいるような状況下での使用が考えられる。ちなみに後遺症などは一切ないとのこと。
「スペツナズ・ナイフ」 >八巻P207
ティーが背中のポケットから取り出した極悪兵器。作中にもあるように、強力なスプリングで刃を前方にカッ飛ばすギミックを備えている。
その名の通りロシアのスペツナズ(Спецназ:パドラズジェレニャ・スペツィアルノゴ・ナズナチェニャ〔特殊部隊〕の略称)で使われたと言われる。飛距離は10メートルほど。いわゆる『投げナイフ』は相手との距離が2メートル以下での使用が前提とされているので、こちらのほうが有効範囲は長い。
見た目は円筒形。グリップ部とシース(鞘)のチェッカリング加工が確かに警棒と似ていなくもない。
刃の飛ばし方は簡単。ヒルトに相当する部分を操作するだけで刃はびよーんと飛んでいく。が、ティーが使い方を知っていたのはどうにも腑に落ちない。
まさか前に一度使ったことがあったりして。
「手榴弾」 >八巻P224
八巻「船の国」終盤でティーがシズと心中しようと手にした武器。幸い心中は未遂に終わったものの、なぜかその後ティーは手榴弾が気に入ったようで、以降よく登場するようになる。
本編中に登場するものは主に破砕手榴弾で、爆発した際に破片となった外殻で敵を殺傷するタイプ。よく誤解されがちなのが信管の構造で、これは安全ピンを抜いた時にではなくレバーを離したときに作動するようになっている。安全ピンは単純にレバーが外れないように固定しているに過ぎない。
九巻「電波の国」では「パイナップルによく似た」と書かれている事から、ティーが使用しているのは主にアメリカ製のMk2手榴弾がモデルのようである。余談だが、パイナップル型の外殻は爆発時の破片の形状を制御するためでもなんでもなく、単純に滑り止めのグルーブであるとのこと。
「ICBM」 >八巻あとがき・ゲーム版『キノの旅』特典ブックカバー
時雨沢氏がおふざけで使う国際標準図書番号。いわゆる「ISBN」のこと。
ただ適当に文字列を並べただけでなく、実は「大陸間弾道弾(InterContinental Ballistic Missile)」の略称になっている。
ともすれば見逃してしまう個所にまで気を使う、読者への優しさが垣間見れる。
「M14」 >九巻P150
九巻「商人の国」で登場した商人の息子達が持っていたライフル。本文中には「緑色の強化繊維プラスチックストックに、大きな二十連弾倉がはめられている」などの記述しかないが、「長距離射撃に備えている」という文から推測するに308口径クラスのライフルで、見張り/防衛用という用途から考えると最低でも半自動方式の機構を備えていると思われる。そうした特長を備えたライフルというと、筆者にはM14くらいしか思いつかない。
M14は本来木製のストックを備えているが、バリエーションとしてファイバー製のストックに換装されたものもある。クラシックな曲銃床のデザインや、308口径特有のハイパワーによって未だに根強い人気を誇るライフル。
ちなみに九巻発売当時(2005年10月10日)、エアソフトガンメーカー大手の東京マルイからM14(それも緑色のファイバーストック!)がモデル化されたばかりだった。この話に登場したのは、或いはそれを意識したものかもしれない。
もしかしたら初期型のH&K G3である可能性もあるが、筆者が敢えてM14と言ったのは――勘。
「パラベラムピストル」 >九巻P176
九巻「殺す国」で、師匠が借り受けた拳銃。P-08と推測されるものの、1906年型のP-06である可能性も否定できない。
パラベラムピストルは自動拳銃の黎明期にドイツのルガー社によって設計された拳銃で、原型になったのはヒューゴー・ボルヒャルトの設計した拳銃であると言われている。初期の物は7.65mm弾を使用していたが、後に専用に設計された9mmパラベラム弾を使用するものが主流となった。9mmパラベラム弾を俗に「9mmルガー」と呼ぶのはこのため。
現在のような前後動する遊底を備えておらず、パラベラムピストル独特の「トグル・アクション」と呼ばれる遊底閉鎖システムを備えているのが特徴。初期の拳銃にはこうした独特のメカニズムが多かった。
「Gew43」 >九巻P176
九巻「殺す国」で兵士達が使用したライフル。本編では十発装填の半自動式であるという以外にたいした記述がないが、一部で同じライフルを狙撃銃として運用している所を見ると恐らくGew43ではないかと推測される。ソ連製のSVT40などである可能性もあるが、本文中には制退器を利用している描写が見られない(というより、反動が強烈であるという描写がある)ことから、制退器を備えていない同世代のGew43と見るのが適切であると筆者は思う。異論は認める。
Gew43は正式には「Gewehr43(43年式小銃)」と呼ばれるドイツの半自動小銃で、ガス圧作動方式に着脱式弾倉を採用するなど当時としては割と近代的な小銃だった。口径は7.92mm、モーゼルKar98Kなどと同じ弾薬を使用する。
またGew43には専用のスコープが用意されており、こちらはZF4(独語で「照準望遠鏡・4倍率」の略称)と呼ばれていた。
「グレネードランチャー」 >十巻P48
「ティーの一日」にてシズが手に入れた新兵器。「仕事の報酬としてもらった」と言ってはいるが、実は手榴弾を正確に投擲するのが苦手なティーの為に仕入れてきたのではないか、ということは想像に難くない。シズ様ウッハウハ。
全長70cm前後というディティールから推測するに、モデルはM79榴弾射出器。グレネードランチャーの設計思想は「手榴弾をより遠く、正確に命中させる」という事にあり、歩兵分隊単位での火力を増強させるために一人で運用することを前提に開発された。
小銃擲弾(「九九式小銃」の項参照)も同じような設計思想に基づく兵器だが、グレネードランチャーは予め専用に設計された榴弾を用いる所が特徴。M79に用いられる40mm口径の弾薬は大型の薬莢と弾頭から構成されていて、薬莢に採用された「ハイ・ロー・プレッシャー構造」は燃焼ガスの圧力を制御し、弾頭が射出される速度と反動を和らげている。弾頭は数種類あり、手榴弾と同じような破砕弾頭から、高性能爆薬が詰まったもの、照明弾、対軽装甲爆薬、果ては催涙弾など様々。
最大射程は400mに達し、照準精度も比較的良好。しかし重い弾頭を低初速で射出するため、目標までの距離に比例してランチャー本体を傾けなければいけない。そのため、照準器は距離に合わせて使い分ける事になる。曲銃床の形状がなんとなく変なのは、予め仰角をつけて構えることが前提となって設計されているため。
このグレネードランチャー、ティーが使うことになるのだろうが……目指せジェド・豪士。
「Mk.I」 >十巻P122
「歌姫のいる国」で、誘拐犯のユアンが使用した拳銃。「マークワン」と読む。
元は1950年代にスターム・ルガー社が開発した22口径の競技用拳銃で、同社お得意の徹底的な工程数と部品の削減の結果、シンプルな形状と構造になっている。そのため、命中精度を犠牲にすることなくコストダウンに成功。それまで競技用拳銃としての主流を占めていたコルト・ウッズマン(『森の人』のモデル)に比肩する拳銃として一躍有名になった。
また、22口径特有の発射音の小ささを買われ、サイレンサーを装着して暗殺・隠密作戦などに向けたモデルも少数作られたという。作中で使用されたのは、このサイレンサー装着タイプ。
ちなみに、『歌姫のいる国』後半ではエリアスが使用する。
「ブラックジャック」 >十巻P128
「歌姫のいる国」で誘拐犯が使った武器。鉛や砂など重い物質を、皮革や布などの軟質な外皮で包んだもの。革と鉛で出来た既製品のブラックジャックもあるが、手っ取り早く作る場合には靴下と砂利が便利。
適度な重さとしなりがあるため、手首をちょっと返すだけで凶悪な破壊力を生み出す。何より腹部に使えば目立った外傷が残らないため、私刑などの用途では結構人気。
玄人向けの代物。
「S&W M49」 >十巻P149
「歌姫のいる国」でロブが使ったリヴォルバー。M40かもしれないが、作中の「ハンマーをボディがカバーしている」という記述はM49の特徴的なフレームを指していると推測される。
M49はM37をベースにスミス&ウェッソン社が護身用として設計した小型リヴォルバーで、装弾数を5発、弾丸を.38スペシャル、バレルを2インチに短縮して小型化を図り、ポケットなどにも容易に隠し持てるようにした。
また、従来のリヴォルバーに備えられていたような形状のハンマーでは衣服に引っかかる可能性があったため、M49ではハンマーを覆うようにフレームの形状に変更。さらにシングルアクションでの作動を実現すべく、ハンマースパーの先端部分のみをフレームから露出させている。
「護身用」とは書いたが、実際には隠し持つ事が容易なために、犯罪に用いられることもしばしば。
「モスバーグM590」 >十一巻P120
「学校の国」でキノが通学時に持っていたショットガンのモデル。
基本的には民間仕様のM500と同様の構造だが、M590は限界まで延伸したチューブマガジンによって9発もの装弾数を誇る軍用オリジナルモデル。口径は12番径で、サイズはチューブを延長したために一メートル近く、ショットガンではやや大型の部類に入る。
ちなみに本編ではダブルオー・バック弾を装填して使用されており、一回の発砲で九つの鉛球を撃ち出せるようになっている。それが九連発(無理すれば十連発)も出来るのだから、その恐ろしさは推して知るべし。
バイクの上で振り回すには多少オーバーサイズな気がしなくも無い。
「リヴォルバー・ライフル」 >十一巻P208
「戦う人達の話」で登場したものの、最後まで使われなかった武器。
作中では「旧式の武器」と言われているが、世代的にはキノの持つ『カノン』とさして変わらない時代の銃器である。「回転式弾倉を備えたライフル」とは書かれているが、実態としては「銃身を延長してストックを装着したリヴォルバー」の方が近い。
余談だが、『カノン』のモデルになったM1851の中にも、改修を施された末にリヴォルバー・ライフルとして使用されたものがいくつか存在する。
「ムカデ砲」 >十二巻P91
「日時計の国」に於いて極秘のうちに開発されていたトンデモ兵器。決して『キノの旅』のオリジナルではなく、同様のコンセプトの兵器は第二次大戦時のドイツに於いて「V3」として試作されていた。
基本的な原理は作中でエルメスが解説している通り、砲身に沿って複数設けられた薬室で発射薬を順次燃焼させるだけ。通常の火砲は単一の薬室を持ち、その装薬の燃焼ガスのみで初速を得るが、ムカデ砲はさらに別の薬室を使って砲弾を加速してゆく。最終的には驚異的な砲口初速と飛距離が得られることになる。
しかしそれぞれの薬室を発火させるタイミングを制御することは非常に難しく、おまけに長大な砲身が必要になることから、未だに実用化に至った例はない(はず)。現在ではその比較的緩やかな初期加速でも十分な砲口初速が得られることから、地表から宇宙空間に物資を運ぶためのマスドライバーとしての用途で研究がなされているのみである。
本編中では見事発射に成功していたが、放たれた砲弾は惑星を一周して発射地点に着弾するという離れ業を披露して自爆した。
「自動連射式グレネードランチャー」 >十三巻P38
師匠・ハンサムのコンビが「昔の話」で用いた兵器。
作中での描写からは主に米軍で使用されるMk 19に似ているが、類似したシステムの火器は数種類存在するため、正確な特定は難しい。使用する弾薬は十巻「ティーの一日」に登場したM79と同じ40mm口径グレネード弾ではあるものの、こちらは薬莢がやや延長された専用のものを用いる。また、自動連射式のグレネードランチャーの場合、専用の銃架に据えつけて使用することや、作動のために必要な反動を得るために、この弾薬は従来の40mmグレネードよりも高い初速を持つ。
作中では破片を撒き散らして目標を殺傷するような描写があるが、Mk 19などで実際に用いられているのは破砕弾頭ではなく通常の高性能爆薬弾頭で、破片は爆発の際に飛び散った弾殻であろう。それでも着弾点から半径15mまでは殺傷範囲とされているため、特に人が密集した場所に撃ち込むとちょっぴり地獄絵図のような有様になる。。
ちなみに「近いところへ着弾したら自分達に被害を与える危険性」について言及されている箇所があるが、通常の40mm弾頭には一定距離を飛翔しないと弾頭が起爆できない構造になっているため、そこまで甚大な被害に見舞われる恐れは少ない。
乗り物など
「モトラド」 >一巻P16
『キノの旅』作中では「空を飛ばない二輪車」を指す語。空を飛ぶのは「バイク」らしいが、まだ本編に登場した事はない。
語源はドイツ語の「Motorrad」から。「オートバイ」という意味で、正確な発音は「モトァーラート」となる。
エルメス以外のモトラドが登場する事は滅多にないが、『旅人の話』(ビジュアルノベル)にはオフロードタイプのモトラドが登場するという(註:筆者未確認)
また十二巻の「雲の前で」では喋る原付が登場。「原付もモトラドに入るのかよ!」という疑問もあるだろうが、「空を飛ばない二輪車」という定義からすれば何の問題もない。
「バギー」 >一巻P158
シズ様の乗り物。元々は戦場に遺棄された車輌だったらしい。
モデルとなったのは米国Chenowth社製DPV(デザート・パトロール・バギー)。どうやらエルメスとは違い、喋らないようである。
歩兵がプラットフォームとして使用する事を想定した軍用車輌なので50口径機関銃や7.62mm軽機関銃のマウントなどが設置されているが、如何せんシズ様は銃器を使わない。宝の持ち腐れである。
ちなみに屋根などはなく、雨や雪が降った場合、シズはパーカーを着用して凌いでいるようである。……陸は?
余談だが、筆者のハンドルネームはこのバギーのメーカーから採られている。
「ホヴァー・ヴィークル」 >一巻P213
通称ホヴィー。英語の「hover vehicle」を省略したもの。「浮遊車輌」という意味。
『キノの旅』に度々登場するSFチックな車輌で、どうやって浮いているのかは不明だが、とにかく空を飛ぶ。
こんな便利なものがあるのに、わざわざ飛行機械を作ろうとしたニーミャは何を考えていたのだろうか。
ちなみに一巻『平和な国』で登場したホヴィーには『スペクテイター』という名前がついているが、これは「観客」などの意味がある。
「スバル360」 >二巻巻頭カラーページ
師匠の乗る車のモデル。丸っこい小さなボディが特徴。
スバルというからには日本製。日本車は性能がいい事で世界に知られているが、師匠に扱われたせいか本編中に出てくるのはボロボロである。
師匠が乗るクルマといっても、別に射出座席があったりリモコン操作できたり、ミサイル発射できたりするという事はない。それは違う。
「Strv.103」 >二巻P130
絵描きの青年が話していた戦車。本文では『無砲塔のペッタンコ』の戦車だと記されている。
青年の話から察するにスウェーデン製のStrv.103だと思われる。105mmライフル砲を装備して、青年の話の通り油圧サスペンションで俯仰の調整を行う。調整範囲は-10〜+12度程度らしい。ペッタンコの変なデザインであるが、これは砲弾を浅い角度で弾くために考慮された形状である。
ちなみに“戦車”と書かれているが、実際は“突撃砲戦車”という部類に入る。
この戦車絵好きの青年の話はマニアックで楽しい。楽しいが、ネタが分からない人にはどう映るのだろう。
「浮遊戦車」 >七巻巻頭カラー
七巻「戦車の話」にて登場した空に浮く戦車。筆者は戦車にはやや疎いので詳しく分からないが、おそらくイスラエル製のメルカバMk.3がモデル。
主砲は120ミリ滑腔砲。車体重量は60トンに達するが、作中に登場するのは浮遊戦車なのでどれだけ重かろうと関係ない。しかし、浮いている場合の主砲発射時の反動をどう処理するかは謎。
――が、九巻『続・戦車の話』を読むとどうやら搭載している主砲は200mm滑腔砲らしい。デカすぎる感はあるが、戦車を浮かべる程の技術力に比べれば200mmの戦車砲など大した事ではないのかもしれない。
「オート三輪」 >九巻P56・57
「作家の旅」の扉絵に描かれているオート三輪。本編に登場する作家がかつて乗っていた物のようだが、そうであると明確に記述されている箇所はない。
イラストに描かれているものは恐らくマツダ製のT600三輪ライトバンと思われたが、旧車好き様からの情報提供に拠れば「T600であったとしても最初期型、扉絵のものはおそらくその一世代前のK360ではないか」とのこと。従来のオート三輪と異なり、エンジンは運転席足元ではなく運転室と荷台の間に配置されている。
総排気量356cc、出力も最高で11ps(8.2kw)/4300rpmと控えめな性能ではあるが、これは低速時の安定性や高燃費を狙ったものであるという。現在で言うところの「軽自動車」としての位置付けになるだろうか。
ちなみに筆者も長らく勘違いしていたのだが、K360いわゆる「ミゼット」ではない。……ミゼット自体はダイハツのオート三輪の商品名なのだが、稀にオート三輪の総称のように扱われることもあって、時折混同されることがあるようだ。
「モトコンポ」 >十二巻P224
「雲の前で」で登場した、『キノの旅』本編では初となるエルメス以外の喋るモトラド。口調は乱暴だが気は良い。
モデルとなったのは本田技研の開発した「モトコンポ」である。折り畳んで車のトランクに積み込む事が出来る軽量・コンパクトな原付であるが、勿論そのサイズを実現するために様々な面で性能が制限されている。作中に登場した奴隷ちゃん(仮名)はこれを相棒にすることになるのだろうが、あまりに無謀といえば無謀。
「トラック」 >十三巻P30
「昔の話」に登場した2ドアのピックアップトラック。口絵のイラストを見る限りはフォードかトヨタに見えるが、異常に嵩上げされた車高や凶悪なグリルガードのせいで元のモデルが判別できない。どなたかお分かりの方がいらっしゃいましたら情報提供のほどを。
見た感じは「オーストラリア人御用達」仕様車。しかもなぜか最新兵器のプラットフォームとして流用されたらしく、荷台には自動連射式グレネードランチャーの銃架が溶接されている。一見荒唐無稽な改造に見えるかもしれないが、アフリカなどではこの種のピックアップトラックをベースにした戦闘車両は「テクニカル」と呼ばれて広く利用されており、対戦車砲から機関銃まで何でも載せる。兵員だって乗せる。
本編ではよりによって師匠とハンサムの凶悪コンビよって使用され、『キノの旅』シリーズ屈指の大殺戮を繰り広げた。おまけにただの火力拠点としてだけではなく、GTA紛いの危険走行によって大量の挽肉を量産させられる事になる。
人名について
「時雨沢恵一」 >各巻の表紙・あとがき・著者近影
大ヒット作『キノの旅』の作者。
哲学的・寓意的で奥の深いと評される『キノの旅』だが、彼の書くあとがきや同居人“雨沢”との会話、それに著者近影や『電撃ヴんこ』での飛ばしっぷりなどから見るに実は愉快な御方のようである。
“時雨沢”は銃器メーカーの“SIG SAUER”から。英語風に発音すると「スィグサワー」となる事から転じて「しぐさわ」となったようである。
“恵一”は分からないが、もし銃器に由来する名前であれば韓国製のライフル「K1」か。もしくは本人のお名前、という事も考えられる。(26670711追記:『学園キノ2』あとがき中に於いて「『ああっ女神様っ!!』の螢一に由来」という言明があったため、以上二つの説はいずれも正しくない)
『キノの旅』以外には『アリソン』シリーズを手がける。そちらを読む限り、彼は“萌え”という概念をきちんと理解されている様子。
「キノ」 >一巻P17
言わずと知れた『キノの旅』の主人公。女の子。
年齢設定は十代中ごろから後半まで、話によって様々。ちなみに一巻『大人の国』に登場するキノは別のキノで、現在のキノを庇って死亡している。文章で説明するとかなりややこしい。
彼女、結構波乱に満ちた人生を送っている。十代でこれまでの経験をすれば、老後などは何の苦も無く送れるに違いない。師匠みたいに。
名前の由来は不明。確かに語感的にも優れ、呼びやすい名前である。
月宮様からの情報によると、時雨沢氏本人によって名前の由来がドイツ語の"Kino"(映画館)であるということが明言されているという。意味よりもその語感が気に入ったらしい。このことは十三巻の「あとがき」でも語られている。
また『電撃ヴんこ』に掲載された『キノ颯爽登場』にも登場した。その時の名前は『木乃』。ちなみにミイラを漢字で表記すると『木乃伊』となるが、特に関連性はないと思われる。
英語版、ドイツ語版ともに綴りは「Kino」
「エルメス」 >一巻P18
キノの相棒にして移動手段のモトラド。人語を解すが、諺や成句表現などをよく間違えてはキノに突っ込まれ、黙り込む。
モデルとなったのは英国ブラフ(Brough、一説には“ブラウ”とも)・シューペリア製SS100。サイドカーを引っ張ることを想定して製造されたため、非常にパワフルな車体。排気量は約1000cc。最高速度は時速160kmを超えると言われる。SS100には様々なバリエーションがあるが、マフラーやリアキャリアの形状から推測すると、エルメスは1926年型のSS100ではないかと思われる。或いはオプション装備が豊富に用意されていたのか。
日本で分類すると大型二輪。イラストなどで描かれているのはアラビアのロレンスことT・E・ロレンスが乗っていた「ジョージ号」がモデルとなっているようである。ロレンスもまた自らのSS100に「ボアネルゲ(Boanerge:もしかしたら「ボアナージ?」)」という名前をつけていた事があるらしい。
ちなみにそのロレンスだが、彼が事故死した時に乗っていたのもジョージ七号ことこのSS100である。だからどうという事はないが。
名前の由来はギリシャ神話の「ヘルメス(Hermes)」から。旅人の神であったり球戯の神であったり、窃盗の神様だったりと忙しい神である。
エルメスは「ヘルメス」と呼ばれる事を嫌うが、エルメスという語自体はHermesをフランス式の発音にしただけでさして変わらない。
他にもエルメスはシズの乗るバギーのメーカー「Chenowth」を「シエノウス」と半ばフランス語風に読むなど、中の人はフランス人かもしれない。
やはり『学園キノ』にも登場。詳しくは伏せるが、エルメスはいろいろと凄い事になっている。
英語版、ドイツ語版での綴りはともに「Hermes」
「シズ」 >一巻P140
一巻収録「コロシアム」にて、キノと決勝戦を戦った人物。武器は刀。
犬を従え、バギーで各地を旅する旅人である。色々深い過去があるがここでは割愛させてもらう。
一応、『キノの旅』のサブキャラクター。彼が主人公(陸視点だが)の話も沢山あるので、決して脇役ではない。はず。
名前の由来は不明。日本風の匂いがするが、まさか『静』ではあるまい。可愛すぎる。(註・電撃ヴんこに掲載された「キノ颯爽登場」では『静』となっていた)
また、彼の持つ刀は耐久力が異様なまでに高く、四巻「たかられた話」では二十二人連続斬りという大道芸レベルの事をやってのけた。
だが複数のイラストを見ると刀のモデルがいちいち違うので、決して壊れないという訳でもなさそうだ。
ちなみに彼には登場当時からロリコン疑惑が掛かっているが、六巻「祝福のつもり」でそのロリコンの地位を不動の物とした。
また八巻「船の国」では遂に死に場所を見つけるほどのロリキャラに遭遇。そして本気で死にかける。
シズ様ウッハウハ。
さらに余談ながら、彼の着ているセーターは「Woolly Pully」というブランドのもの。ウーリー・プーリーはイギリス製のセーターで、エポレットなどを始め肩や肘にパッチを当てて強度を上げたスタイルは各国の軍で「コマンドセーター」として模倣されている。
もちろんシズ様の着るのは純正ウーリー・プーリーで、モデルはタートルネックのオリーブドラブ色。国内でも入手できる。
英語版、ドイツ語版ともに綴りは「Shizu」
「陸」 >一巻P160
シズの相棒というか下僕というか。人語を喋る犬である。
ロシア産のサモエド犬で、正面からみると笑っているような顔を見せる。これが愛犬家の間で「サモエド・スマイル」といわれる由縁であるそうだ。ちなみに本人(?)が言うには、単に表情が笑顔で固定されているだけで決して常に喜んでいるわけではないらしい。
実物は意外と大型犬。イラストでみると体高はシズの太腿あたりまである。名前の由来は著者の時雨沢氏の友人が飼っているサモエド犬の名前を拝借したそうだ。
エルメスには人語を喋る事を驚かれたが、六巻「祝福のつもり」に登場するラファは平然と受け止めている。
どうやらキノの住む世界は犬が喋って当然の地域があるらしい。
十巻「ティーの一日」の扉絵では、とうとう体長がティーの身長を凌駕。もしかしたら、陸は日に日に巨大化しているのではないだろうか。
英語版、ドイツ語版ともにローマ字に音訳した名前で表記される。
「師匠」 >二巻巻頭カラーページ
色々な話で登場。キノにパースエイダーの技術を仕込んだ女性で、キノと暮らしていた頃にはもう老婆だったようである。しかし彼女が登場する話はまだ若い頃のものが多く、昔からお転婆だったことが伺える。
彼女が出るからという訳ではないだろうが、彼女の出演する話はほとんど血みどろ。この手の話が嫌いな人には鬼門かもしれない。ちなみに幽霊が嫌いという可愛らしい一面も持っている。
愛車スバル360を駆り、相棒と共に旅をしている。
英語版では彼女に対する言及が異様に少なく、またドイツ語版では何箇所かで男性だと曲解されている。
「男(本名不詳)」 >二巻巻頭カラーページ
全裸で初登場を飾った、師匠の相棒。左利きらしい。本名が出ている話は今までになく、俗に「ハンサム(略)」とか「背の低(略)」とか。通例「相棒」とか「スミス」などと呼ばれる。
師匠とのなれ初めは六巻「長のいる国」に収録されているのでここでは割愛するが、彼と師匠の関係はよく分からない。数少ない話を読む限りは単なる使い走りのようにも思える。
ちなみに彼はキノが使っているパースエイダー『森の人』の元の所有者と思われる。二巻収録「優しい国」では老いた彼が登場し、キノに『森の人』を託した。その後で国を襲った火砕流に呑まれたように思うが、死亡は確認されていない。若い頃のあの飄々とした態度から考えると、まだ生きている可能性も無くは無いと言い切れない事はない。
「四人の息子」 >一巻P224
一巻「平和な国」にて館長の台詞から。長男ウトス、次男ソトス、三男ダトス、末っ子ヨトスが居たらしい。本編でも館長の回想の中でしか出てこない。
ただ、彼らの名前の最初の一文字だけをを生まれた順に読むと、「ウソダヨ」となる。これが偶然なのか、あるいは作者の意図した事なのかはよく分からない。
意図した事だとしても、この仕掛けに込められたメッセージを読み取る事は難しいと思われる。
英語版、ドイツ語版に於いてもローマ字に音訳した名前が用いられている。
「ニーミャ」 >二巻P70
フルネームは「ニーミャ・チュハチコワ」。東欧系の名前のように聞こえるが、生憎とそちらの言葉には疎いので由来等は割愛させていただく。AnnaまたはAnneのロシア語略称形? ライト兄弟に12年先んじて飛行機の原型を発明した日本人・二宮忠八の名前をもじったものであるというご指摘(情報提供:烈様)を戴いたが、本編を読む限りはこの説が正しいように思われる。
ちなみに二宮忠八自身は飛行機を完成させる事ができず、現在ではもっぱらライト兄弟が発明したとされているそうである。
二巻「魔法使いの国」に登場。かなりパワフルなお姉さんのようである。婚約者がいるらしいが、それもそっちのけで飛行機械を作ることに熱中。
あの話の後、国から受ける待遇が変化したのかは知らない。
「シュヴァルツ」 >二巻P136
二巻「帰郷」前半部にて、話の主人公となった青年。冒険に憧れて旅に出るも、何も出来ずに故郷を帰って来るという、若さ故の過ちを体現したかのような男。
名前の由来はドイツ語の「Schwarz」で、「黒」という意味で用いられる。
親のネーミングセンスが疑われる。
「トート」 >二巻P135
二巻「帰郷」にてシュヴァルツの回想の中に登場した。いわばシュヴァルツの妹分。
シュヴァルツに想いを寄せていて彼もそれに気付いていたようだが、シュヴァルツは旅に出てしまい、彼が帰郷する前に伝染病で死亡。この伝染病は、国全体を滅ぼす事になる。
名前の由来はやはりドイツ語。別に便座のメーカーではない。「Tod」には「死」という意味があり、それを知っている者が聞くとあまりいい名前ではない。
ちなみに、彼らの名前をつなげて考えると、彼らの国が滅びる原因となった病気は黒死病ではないか(黒死病はドイツ語で「Schwarzertot」)と推測することができる。
ドイツ語版では「Toto」となっていたが、その――うん。まあいいか。
「さくら」 >二巻P179
二巻「優しい国」に登場。十一、二歳の少女。
キノが宿泊する宿を経営する夫婦の娘で、滞在中キノと仲良くなる。が、キノが出国後、火砕流により彼女の国が滅び、現在は消息不明。多分死んでいる。
語源は本編にあった通り、日本でも有名な「桜」である。どうやら桜の木はキノの住む世界にも存在するようだ。
本編の描写から推察するにかなりの可愛さで、彼女のファンが多数いた事は読者投票で「優しい国」が一位を取った事からも伺える。
ちなみにゲーム版には彼女のイラストが登場。やっぱり可愛かった。
ドイツ語版では「Sakura」
「ラウハー」 >三巻P40
三巻「城壁のない国」に登場した、部族の男。例の煙草を吸いつづけているヘヴィースモーカーである。
名前の由来はドイツ語の「Raucher」から。「喫煙者」という意味で、語感的にはあまり良いとはいえない。
彼は自分の部族の悪習を正すため、大人を鏖殺。しかし子供に禁煙を諭す前に殺されてしまう。
ドイツ語版でもそのまんま「Raucher」
「案内人の子供」 >三巻P98
三巻「同じ顔の国」に登場した案内人兼その他の子供。長女ヘン、次女デュオ、長男トリア、双子の三女テッタラとフレジア、次男ヘクス、三男ヘプタの七人兄弟。大家族である。
名前の由来についてはまだ確定できないものもあるが、長女のヘンは12以上の数字を表す際の接頭辞「hen」(情報提供:IUPAC様)、次女のデュオは英語の「duo」、トリアは「tri」をもじったもの、テッタラは「tetra」、ヘクスは「hex」、ヘプタは「hepta」に由来し、それぞれ数字の「2」「3」「4」「6」「7」という意味を持ち、これは生まれた順番とも一致する。
フレジアについては数字と何の関連もない名前だが、本編中のキノと案内人の会話を読むとこれが別の女性の名前である事がわかる。したがって数字に関係した名前でないのも頷ける。フレジアは女性名Fredericaの変形? Fredericaは古典ドイツ語で「平和(Peace)と裁き(英Judge?)」を表し、特に「平和」に関しては本編後半に登場する指揮官の娘の名前との関連性が指摘できる。
また花言葉で「純潔」を意味する花に「フリージア」というものがあり、クローン技術で生まれてくる国民を暗喩した名前なのかもしれない(情報提供:IUPAC様)
またテッタラとフレジアは双子とされているが、名前から考えるとテッタラの方が姉だと思われる。
ドイツ語版での名前は、それぞれ順にHen, Dyo, Tria, Tettara, Frejia, Heks, Hepta。語義ではなく発音を重視した綴りが採用されている。
「指揮官の子供」 >三巻P113
三巻「同じ顔の国」に登場した、出国したキノを保護した軍の指揮官の娘二人。双子で、姉がイリニ、妹はミールという名前がつけられている。
「イリニ」は英語名Ireneのもじりか。ギリシャ神話の平和の女神に由来し、転じて「平和」を表す。
妹の「ミール」は恐らくロシア語のМир(ラテンアルファベートではMir)が元。ロシア語で「平和」または「世界」という意味がある。姉の名前を考えると「平和」の方であろう。
ドイツ語版では「Irini」と「Mir」
「リューグナー」 >三巻p179
「差別を許さない国」に登場した入国審査官の名前。本編中では、彼の回想の中で祖父が呼びかける際にしか使われない。
綴りはおそらくLügner。「嘘つき」などの意味があるが、作品の内容に関連性があるとは思えない名前。語感こそ普通の名前と変わりないが、語義的に×××××な感は否めない。
国の人間から入国審査官という職業を蔑まれたり、ロリコン呼ばわりされたり、心の底から死を望まれたりと大変な人物だが、それでも本人は今の暮らしを気に入っているらしい。のんびりと本でも読みながら、今日も「本当の蒼い空」について思いを馳せているに違いない。
ドイツ語版では名前を明かされず、ただ「Mein Kleiner(わしのちびすけ)」とだけ表記されている。というのも、この名前は人名としてポピュラーでない上、その語義のネガティヴなイメージから、そのまま訳に載せることが躊躇われたのだと思われる。
「イーニッド」 >三巻P186
三巻「終わってしまった話」に登場した海賊を目指す女の子。
綴りはEnidか。イーニッドはウェールズ語起源の名前で、「Wood-lark」の語形成を持つとされている。イギリス等では割とよく見る名前だそうで、本編に於いて特別な意味を持っているのかどうかは不明。
有名な所では『アーサー王物語』(正確には『マビノギオン』)の中の「エルビンの息子ジェレイント」に登場する、ジェレイントの妻の名前がイーニッド(手元の資料では“エニッド”だった)がある。
ちなみに、「終わってしまった話」の最初と最期は後に海賊になれなかったイーニッドの一人称で語られている。どうやら作家として成功しているらしく、「子猫が兄妹猫四匹に一斉に上に載られた時のような声」等の気の利いたレトリックが冴える。
ドイツ語版ではEnid。
「レーゲル」 >五巻P17
五巻「人を殺すことができる国」に登場。元連続殺人鬼にして、今は普通のおじいさん。
名前の由来はドイツ語の「Regel」から。「規則」や「通例」などの意味。作中で国の法律について述べていることを考えると、なかなか含みのある名前ではある。
この老人が過去に連続殺人を犯すに至った経緯は語られないが、「仕方が無くてやった」という類の殺人者には割と寛容的な様子。
「イナーシャ」 >五巻P199
五巻「病気の国」にて登場。
何らかの病気に侵されているらしく、ベッドの上が家。
名前の由来は英語の「inertia」。「慣性」「惰性」などの意味を持っている。
文通相手にローグという少年がいるらしいが、彼は既にこの世にはいない。
ちなみにゲーム版『キノの旅』にも登場した。
「コール中尉」 >五巻P213
五巻収録「病気の国」にて登場。階級が中尉というからには一個小隊程度の部隊の長であるはずが、部下を引き連れて行動することはないらしい。デスクワーカーだろうか。名前の由来は不明。英Call?
四輪駆動車に乗って開拓村を走り回り、ついでに他人の手紙を盗み読んだりするお兄さん。仕事だから仕方ないか。
自分の悪行(別に彼の責任ではないのだが)を揉み消すためにキノを殺そうと試みたが未遂に終わる。
……と書くとキノに殺されてしまったと誤解されるかもしれないので付け足しておくが、彼は一応生きている。
また彼とイナーシャのその後は『黒星紅白画集』にて知る事ができる。
「ローグ」 >五巻P204
イナーシャの文通相手。既に他界している。名前は英語の接尾辞「-Logue」?。-Logueの起源となったギリシア語のlegeinには「話す」などといった意味がある。
特に活躍する場面がなかった彼だが、ゲーム版『キノの旅』では彼がまだ生きている頃のエピソードが収録されている。
「ラファ」 >六巻P196
六巻「祝福のつもり」に登場した少女。名前の由来は多分“ラファエル(Raphael)”から。ヘブライ語で「癒し・神」の語形成を持つとされる。通例男性名だが、Rafaellaなどの女性名も稀に存在する。本編中に於いて特別な意味がある名前だとすれば、シズを癒す役割を負っているという事か。
貧乏な生い立ちらしく、鉄屑を集めては売ってお金に換えている。
本編ではシズに「自分を買ってくれ」とせがみ、最終的にシズはそれを承諾する事になる。……と書くとやはりアブない匂いがするので付け足すが、ラファはシズに召使いとして買われる事になる。どっちにしろアブないか。
しかし、物語終盤で彼女は自分の臓器を売り、その金を家族に遺して他界。シズ様がっかり。
余談だが『キノの旅』に登場する少女達は大抵死ぬ傾向にある。
「ディス」 >七巻P92
七巻「冬の話」に登場した男。お医者さん。
安楽死を繰り返して国を追われた身で、各地で病院の手伝いなどをしながら放浪している。
名前の由来はおそらく「Dis」。ローマ神話に登場する冥界の神の名前である。
ちなみにいろいろな話で殺人的味付けと伝えられるキノの料理だが、このお医者さんにとっては美味しかったらしい。よほど食べる物がなかったに違いない。
「スケルツィ」 >八巻P74
八巻「ラジオな国」で、国営ラジオの出演者として登場。詭弁の塊のような主張を電波に乗せて喋る楽しい人。
名前の由来はイタリア語で、「冗談屋」くらいの意味がある。その名の通り、彼自身は自分の言葉が馬鹿ばかしい論調である事を自覚して、一種のエンターテイメントとして放送している事が話の中で明らかになる。
「ティー」 >八巻P135
八巻「船の国」に登場した少女。恐らく『キノの旅』始まって以来初めての「死なない少女」である。
本名は『ティファナ』。由来は船の名前から取ったとエルメスの言葉から分かるが、本来は実在する街の名前。アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴからメキシコに入国すると、ちょうどそこがティファナ市。治安は結構悪い。スラム繋がり? あとティファナの香水には十代の
無口無表情というコメントに困る少女だが、我らがシズ様は彼女と行動を共にするにあたってそれを気にするような器量の狭いお方ではない。
おかげで少ないながらコミュニケーションを図ることもでき、パーカーをくいくい引っ張られたり、雨を凌ぐために自分のパーカーに潜り込ませたり、腹をドスでぶっ刺されたりと、シズ様ウッハウハ。
九巻を読むと、どうやら手榴弾がお好きなご様子。目指せジェド・豪士。
ちなみに、喋る言葉は全て平仮名で表記される。ハサハ
「子供達」 >九巻P110
九巻「日記の国」に登場した、日記を書く三人の子供達。エミリー・スプリングフィールド、キャリー・シュタイア、ジーン・シュミットルビンという名前がついている。
彼らの姓は全て銃器に由来しており、それぞれスプリングフィールド造兵廠、シュタイヤー社(日本では主にステアーと発音)、シュミット・ルビンが元ネタ。
ちなみにシュミット・ルビンだけはメーカーの名前ではなく、1889年にストレート・プル・アクションと呼ばれる独特の小銃の機構を開発した二人のスイス人、ルドルフ・シュミットとエドゥアルト・ルビンの姓をくっ付けたもの。
別に込められた意味はないが、思わずニヤリとしてしまう名前である。
「エリアス」 >十巻P114
「歌姫のいる国」に登場した、貧困層に属する少年。時雨沢氏が『アリソン』『リリアとトレイズ』シリーズで培ったヘタレキャラの造形技術をフィードバックして作り上げられたかのような、ナイスヘタレ。
名前は英語/独語名「Elias」から。聖書にも登場する「エリヤ」にその起源を持つ、なかなか偉そうな名前。本編中で偽名として使われた「エリー(Eli)」は単なる愛称形などではなく、それ自体が独立した名前として用いられる場合がある。どちらもヘブライ語で「神」という意味を持つという。アメリカ人は「エライアス」と発音する。
旅先で出会った人物が容赦なく死んでゆく『キノの旅』にあって、ハッピーエンドを迎えられた稀有な人物の一人。この先どうなるかは分からないが。
「ロブ」 >十巻P118
「歌姫のいる国」に登場した誘拐犯の一人。エリアスを誘拐犯グループに引き込んだ人物。
名前はおそらく、「Robert」の英語圏における短縮形。「輝ける名声」などといった意味を持つらしい。
そんな名前とは裏腹に、最後まで小悪党レベルの扱いのまま、最後は爆弾により四散。
「ケイン」 >十巻P120
誘拐犯の一人。
有名な「世界で最初に兄弟を殺した男」と同じ名前だが、最早どうでもいい。目立った活躍もせず、そのまま爆死したから。
「ユアン」 >十巻P120
誘拐犯グループのブレーン。誇り高き悪党。
人情に厚い温かみのある性格だが、それが災いして誘拐計画の随所で甘さを露呈。終いには、身代金に仕掛けられた爆薬に気付く事が出来ず、そのまま爆死。
名前は「Ewen」か。アイルランド系の英語名で、「樹木の誕生」のような意味を持つとされる。――別に何かの暗喩となっている名前ではないだろうが。
「サラ・ローレンス」 >十巻P134
本編中で言うところの「歌姫」 歌唱担当。
時雨沢氏が『リリアとトレイズ』で培ったツンデレキャラクターの造形技術をフィードバックしたかのような、見事なお金持ちツンデレ少女。挫けた時はとことん弱気という、まさに絵に描いたようなツンデレ。
名前のサラ(Sarah)はヘブライ語で「王女」を意味する。「歌姫」と掛けている? (考えすぎ)
ストックホルム・シンドローム丸出しの軟禁生活ののち、誘拐犯の生き残りであるエリアスと共に愛の逃避行を敢行。イナーシャ、ティーに続く、『キノの旅』シリーズで死ななかった珍しい少女。
「クロス」 >十三巻P99
「旅人の国」に登場した旅人。シズたち一行としばらく行動を共にする。
ある国の軍人で、かつて国を救ってくれた旅人の死をその祖国に伝えるために旅を続けている模様。ライフルタイプのパースエイダーを所持しているとあるが、特に使用する場面もなく、モデルとなった種類が特定できる記述もない。
作中で名前が明記されるキャラクターは『キノの旅』にあっては比較的珍しいものの、しかし彼に限って言えば、そこまで特徴的な性格を有している訳でもなく、物語上重要な人物というわけでもない。ただの「男」で済ませても差し支えなかったと思うのだが、登場人物を混同しないようにとの作者の配慮があったのかもしれない。
その他小物・小ネタ
「英語版」
文字通り、『キノの旅』をアメリカ合衆国向けに英訳したもの。第一巻発売は2006年10月30日。
読みやすいように、単なる「英訳」に留まらないリライトが施されている。中でも、収録された短編に少しずつ手を加えて時系列通りに再構成し、「短編から成る長編」として読めるようになっているのが大きな特徴。アメリカではアニメ版の『キノの旅』が先に広まったため、そのライトなイメージに合わせるために幾つかの点で変更を余儀なくされたのではないかと推測される。
だが、そのリライトの過程で少なからぬ無理が生じていたりもする。特にキノの心情描写の追加・変更、原作にはない設定の付与、果ては日本語版で示されていた結末と違う結末で終わる話すらも登場する。そのことについてアメリカの出版社と電撃文庫の間でライセンス関係のトラブルが起きているらしく、現在のところ第二巻以降の発売は無期限延期状態となっている。
要は『キノの旅』を「原作」にした別物の何か。
ちなみに「ライトノベル」という分類はアメリカにはないようで、単に「通俗小説」と分類されている。
「ドイツ語版」
文字通り、『キノの旅』をドイツ語圏向けに独語訳したもの。第一巻発売は2006年11月。
極端なリライトが施された英訳版に較べ、ほとんど手を加えていないのが特徴。ただし「あとがき」は収録されていない。
ジャンルはそのまま「ライトノベル」とされているが、補足的に「アニメっぽい絵柄の挿絵が入った小説」と注記されている。
「あとがき」 >各巻々末
小説などの終わりに書き添える言葉。大抵は作者から読者への謝意や、作品の補足などを行う。
『キノの旅』のあとがきはかつて無いスタイルのもので、よくもまあこんなに面白い事を思いつくものだと読者を驚嘆させる。また、昨今ではこれを楽しみにする読者も多い。ちなみに副題の"Preface"という英単語は、厳密には「あとがき」という意味ではなく「序文」というような意味合いが強い。刊行当初からこの英単語が副題として用いられているのは、後の「まえがき」の出現を示唆しているものだ、とする向きもあるが定かではない。
参考までに、各巻ごとのあとがきを下にまとめてみた。
一巻
通常のあとがき。
二巻
取り扱い説明書の書式を模したあとがき。
三巻
一巻「森の中で・a」のセルフパロディ。この頃から通常のあとがきの定義を逸脱しはじめる。
四巻
『あとがさ』と称された、ほぼ虚偽の内容で構成されたあとがき。本編に全く関係ない「ネタバレ」を書くことにより、あとがきを先に読むタイプの読者を戦慄させた。ただの悪ふざけで終わるかと思いきや、これが後の『学園キノ』を生み出すことになる。無論、当時は誰も予想し得なかったが。
五巻
『おとがそ』 時雨沢氏とキノ(50代の教授)の対話形式で送られるあとがき。
六巻
『巻末特別問題』と題された何か。いくつかの指示のもとに、読者自身があとがきを書き上げるように指示されている。
七巻
遂にカラー化。それに伴い、あとがきは巻頭へと移った。まさしくPrefaceという副題にピッタリ。
八巻
著作リスト・電撃文庫既刊作品紹介のページを模したあとがき。大抵は誰もが読み流してしまう部分のため、見つけられない読者が続出。
九巻
カバーの裏に印刷されたあとがき。本編巻末にはダミーのあとがきを配置するという配慮も忘れなかった。時雨沢氏がまともなあとがきを書くようになったと勘違いする読者多数。また、図書館などで本をカバーごとプラスティック製のカバーで覆う場合には読めなくなってしまうため、コピーを添付するなど、各地で司書さんの涙ぐましい努力が見受けられた。
十巻
第五話「こんなところにある国」と題された、72ページから始まるあとがき。ちなみにエルメスが代弁したキノの台詞は、映画『猿の惑星』のラストシーンのパロディ。
十一巻
裏表紙(表四)に書かれたあとがき。……ではあるが、実際には本編P108にもあとがきが存在する。タイトルは「とても見つけにくいあとがき」で、制作秘話や時雨沢氏の個人的な話に終始する類のもの。
またすぐ後には黒星紅白氏があとがきを寄せている。
十二巻
まさかの通常のあとがき。
十三巻
作者と編集者の対談形式による、時雨沢氏への質問コーナー。
当辞典を読むよりも為になる裏話が満載。
その他、氏の作品である『学園キノ』『アリソン』でもユニークなあとがきが展開されている。
「別の弾倉に詰めなおして」 >一巻P25
一巻「人の痛みが分かる国」の二日目の朝、キノがパースエイダーの整備をした場面での描写。『森の人』の弾倉から一度弾丸を全て取り出して、別の弾倉に装填し直す作業。
自動拳銃の弾倉は通常、内蔵されたスプリングの力で弾丸を一発ずつ薬室へと押し上げる構造になっている。しかし、長い間弾倉に弾丸を詰めたままにしておくと圧縮されたスプリングが劣化し、反発力が低下して弾丸の装填がスムースに行かなくなり、作動不良の原因となる場合がある。
そのため、定期的に弾丸を弾倉から抜き、スプリングを伸ばした状態に戻す事で弾倉の命数を伸ばす措置を取る。「コロシアム」によると、キノは『森の人』の空弾倉を5つ常備しているらしいので、弾丸を抜いては別の弾倉に移すという作業をローテーションで繰り返しているのだろう。
「徹甲弾」 >一巻P129
一巻「コロシアム」で、二日目二回戦で戦う女性が最初に撃ってきた弾丸。
固い目標を貫通させるために作られた弾頭で、鉛を真鍮などでコーティングした通常の弾頭と違い、超硬質素材のタングステンやカーバイド等で作られている。
一般に徹甲弾は主に戦車砲から発射する対戦車弾頭の事を言うが、小銃に使う徹甲弾は軽装甲車輌や防弾ベスト等の貫通を目的に作られている事が多い。
ちなみにタングステンは希少金属。お値段も普通の弾丸より張るだろうが、あの女性は随分と太っ腹な戦い方をするものである。
「エスビット・ストーブ」 >一巻P135
一巻「コロシアム」にて、液体火薬を煮詰める際に使ったストーブ。正確に特定できてはいないが、多分コレ、という程度の確信あり。
エスビット・ストーブはタブレット状の固形燃料を使用する折り畳み式の簡易ストーブで、ドイツでは古くから用いられてきた。1939年のドイツ軍には既に採用されていたので、それ以上前から存在する事になる。ちなみにエスビットはメーカーの名前。
『キノの旅』に出てくるアイテムは現実に購入しようとするととんでもなく高い物が多いが、これは¥1000ほどで買える。防災用品などとして需要があるらしい。
また、似たような折り畳み式簡易ストーブがイギリス軍で『トミークッカー』として採用されており、固形燃料の組成によって火力がエスビットより優れている。もしかしたら作中に登場するのはこちらかもしれない。
「ホーロー・ポイント弾」 >一巻P135
キノが『カノン』に装填する弾頭の名称。本文中にある通り弾頭の先端が窪んでいる。
ホーロー・ポイント(Hollow Point、通常はホロー・ポイントと発音する)弾は鉛などの柔らかい材質で弾頭を構成し、またその先端に孔を穿つ事で目標に着弾すると同時に変形しやすくなっている。
空気抵抗などの関係から弾速自体は遅いものの、着弾後の変形により殺傷力は通常のフルメタル・ジャケット弾等の倍以上になると言われている。
キノは襲いくる敵を容赦なく撃ち殺す事を一種のスタンスとしているが、こうした弾頭を用いるのはその心がけが強固である事を示している。
もしくは師匠の影響か。
「ヴェルデルヴァル」 >一巻P205
「平和な国」でキノが入国した国の名前。
独語のWälderwallか。「森の守り」や「森の防塞」のような意味を持つが、本編中の国の景観に関する描写に森などといったものが見受けられないところを考えると筆者の思い過ごしかもしれない。
2007年追記――英語版ではVeldeval、ドイツ語版ではVerdervarと表記されていた。決まった綴りはないらしい。
「縁打ち薬莢式」 >一巻P206
『森の人』についての描写のひとつ。リム・ファイア方式の日本語訳。
金属式薬莢には大きく分けてセンター・ファイア方式、リム・ファイア方式が存在する。薬莢底面の中心に雷管を埋め込んでそれを撃発させるタイプのものをセンター・ファイア、それに対して薬莢の起縁部(=リム)に発火薬を埋め込み、そこを叩いて撃発させるタイプのものをリム・ファイアと称する。
現在主流となっているのはセンター・ファイア方式だが、.22LRなどの特定の弾薬は未だにリム・ファイア方式を採用している。
「ツラレミア」 >二巻P20
野兎病のこと。ダニ・蚊・兎などを媒介として感染する病気。致死率は1%程度だが、百人に一人と考えると大変な病気である。抗生物質で治療できる。
ツラレミアの菌は十個程度を吸引しただけで発症する程の生命力で、特にその媒介たる兎を生で食べれば感染する事必至である。熱で殺菌できるので、兎を食べるにはやはり煮るなどしてからが良い。
「トリガー・ハッピー」 >二巻P119
明確な定義は難しいが、攻撃的だったりやたらめったら銃を撃ちたがる人のこと。いい例が師匠である。
「『イェーガー』とか『ハンター』」 >二巻P143
エルメスの台詞から。曰く「墓泥棒」とか「亡国の金銀財宝を狙う」人たちの事を指すようだ。
『イェーガー』はドイツ語のJäger、『ハンター』は英語のHunterからか。どちらも「狩猟者」という意味を持つ。
「HACCP」 >三巻P72
三巻「同じ顔の国」の副題。“Hazard Analysis Critical Control Point”の略。発音は「ハサップ」
HACCPとは60年代にアメリカで開発された食品衛生管理法で、その優秀性が認められてからは国連により世界中の国に推奨されている。製造工程にのみ注意を払ってた従来の方式とは異なり、加工前の原料の仕入れから製品の出荷まで全ての工程において安全管理を徹底している。
作中に於いては、完全な管理の下で国民が“製造”されている事を示していると思われる。
「排莢穴脇に赤いマーク」 >六巻P92
スミスの科白から。自動拳銃の中には、薬室に弾丸が装填されていることを示すローディング・インディケーターという部品を備えたものがある。勿論これが見えていないと装填はされていない。
「排莢穴脇に赤いマーク」から推測するに外装式エキストラクターとしての役目を兼ねていると思われる。この種のインディケーターを備えた拳銃として、有名な所ではイタリアのベレッタ社製M92がある。
「バレルとシリンダー」 >六巻P97
スミスが師匠の使うリヴォルバーの消耗部分を指摘した際の科白。
通常『カノン』に代表されるようなパーカッション方式のにリヴォルバーは、シリンダーの中で発火した火薬が弾丸を押し出し、バレルの中に押し込んで加速させるという構造を持っている。しかしシリンダーとバレルの間隔が広すぎると、本来弾丸を押し出すための火薬の燃焼ガスがそこから漏れ出てしまう。スミスが「威力だいぶ落ちているでしょ!」と言ったのはこのため。
『カノン』の元になったM1851の設計は古く、冶金技術の未熟な時代に作られたために、長く使うとバレルとシリンダーの間隔(シリンダー・ギャップと呼ぶ)が大きくなるという欠点があった。
ちなみに、シリンダーギャップから燃焼ガスが漏れると弾丸が正常に射出されなくなるだけでなく、隣の薬室に装填された火薬が引火する事がある(チェーン・ファイア)。一巻「コロシアム」P113でキノが装填済みのシリンダーの穴にグリースを詰める描写があるが、これはチェーン・ファイアを防ぐための措置。
このシリンダーギャップ、ギリギリに狭めれば良いかと言うとそうでもない。あまり間隔を詰めすぎると、今度はシリンダー自体が回転しなくなってしまう。燃焼ガスのロスを最小限に抑えつつ、シリンダーの回転を妨げることのないように調整するには、それなりの技術が必要になる。
六巻「長のいる国」は、難しい調整を買って出るスミスの腕の良さが、そこはかとなく匂わされている話でもある。
「自然の材料で作られたもの」 >七巻P131
七巻「森の中のお茶会の話」に登場した老夫婦ご自慢の作品。人間の体の一部或いは全部を使って作り上げたオブジェの数々。
人間を使って家具や装飾品を作った例としては、エドワード・ゲイン(1906〜1984)が有名であり、またこの作品のモティーフとなっているとも考えられる。参考までに、ゲインが作り上げた「作品」は次の通り。
・頭蓋骨で作られた椀1つ
・人間の皮膚でカバーされた椅子4組
・人間の皮膚が張られた太鼓
・取手が人間の皮膚で出来た婦人用ハンドバッグ
・女性の顔面の皮膚で作られたデスマスク9つ
・人間の大腿部の皮膚で作られたズボン一着
・女性の胴体の皮膚で作られたベスト一着
いくつかには、作中の老夫婦の作品と似通った要素が見て取れる。
また本編では「燻製にされた大腿」が出てきたが、ゲインにも食人癖があったと言われている。
「コミスブロート」 >八巻P67
八巻「愛のある話」で、盆地に駐留していた軍が昼食としてキノに提供したパン。コミスブロート(Kommissbrot)とはドイツ語で『軍隊パン』という意味がある。
材料の殆どがライ麦で、イースト菌も使わずに発酵させたライ麦を使う。そのため生地が膨らむ事もなく、小麦粉から成るパンとはだいぶ食感が異なる。
しかし普通のパンよりも栄養価は高く、第二次大戦時のドイツ軍ではこれが一人あたり700〜800グラム(一斤)が配給されていた。
国内ではあまり手に入らず、筆者が確認したのは静岡にあるオリジンカワモトというドイツパン屋さんだけである。
ちなみにこの食事を提供した将軍の言葉にある『製パン部隊』や食事の付け合せなどを見ると、どうやら盆地に駐留する軍のモデルとなったのは第二次大戦時のドイツ軍?
「文鎮」 >九巻P249
師匠の言葉から。正確に引用すると「弾のないパースエイダーなんて、文鎮ですよ」と言っている。
「文鎮」とは使用できない銃器が単なるデッドウェイトと化す事の比喩表現ではあるが、おそらくその昔、無稼動モデルガンが「文鎮モデル」と俗称されたのと無関係ではないだろう。
「文鎮モデル」とは、金属製モデルガンが違法化された際に外観だけを似せて鉄や亜鉛のダイキャストなどで製作されたモデルガン。もちろん似ているのは外観だけで、内部機構などは再現されていない、ただの鉄の塊。故に「文鎮」と呼ばれる。
「レバーにテープ」 >十巻P82
「ティーの一日」の中の描写の一。ティーが誤って手榴弾を爆発させないように、シズが手榴弾の安全レバーにテープを巻きつけていた。
このような措置は実際に軍隊で行われており、特に破壊力の大きい白燐手榴弾などは厳重にテープが巻かれることになる。安全ピンは抜けにくいように先端を広げられ、万が一ピンが抜けてもレバーが外れないように弾殻本体にテープで止められる。
さらに神経質な者になると、安全ピンのリングにまでテープを巻きつけるという。安全重視もいいのだが、いざ必要になった時に素早く撃発させられるのかどうか。
「体操」 >十巻P103
エルメスの言葉から。「歌姫のいる国」を訪れる以前、どこかに毎朝音楽に合わせて体操をするのが慣習となっている国があったらしい。
ラジオ体操が元か。
「消音散弾」 >十一巻P80
「アジン(略)の国」でスミスが回想したもの。
元々はアメリカのAAI社で開発されたアイデア商品で、その開発時期は1960年代後半と意外に古い。本文中にもある通り、薄いスチールの袋の内部で火薬を爆発させ、袋が膨張する勢いで別に装填された散弾を弾き出す、という構造。火薬の爆発に伴なう燃焼ガスの噴出による銃声は、ガス自体を袋の中にパージすることでこれを打ち消す。
アメリカ海軍で実験された時には「発射音がポンプの作動音よりも小さい」と好評価を得たが、なぜか200発ほどが試験的に納入されたのみで量産されていない。本編中でスミスは「思ったより威力が弱かった」と述懐しているが、やはり構造上その初速が低かった(一説によれば.22LRの半分以下)のが災いしたのだろうか。
「フルメタルジャケット」 >十一巻P217
「戦う人達の話」で、元近衛兵の男が発した科白の中に登場した術語。
フルメタルジャケットとは弾頭の種別の一つで、鉛の弾芯を真鍮製の覆い(ジャケット)で覆ったものを言う。着弾時の変形を防いで貫通力を向上させる事を目的に設計されており、キノが好んで用いる「ホーロー・ポイント弾」とは設計思想からして異なる。ちなみに「フル」とついているのは、先端のみ弾芯を露出させて故意に貫通力を低下させ、殺傷能力を高めたパーシャルジャケット(或いはセミジャケット)弾と区別するため。軍用などの用途には主にフルメタルジャケットが使用される(その場合、稀に「ボール」と呼ばれる)
無論のこと、一部を除いてフルメタルジャケット弾の全ては真鍮でカバーされているため、作中のようにこれを以てして「鉛弾」と呼ぶことには疑問の余地があるが、鉛弾という語そのものが銃弾の俗称としてしばしば常用されている現状を考えれば、目くじら立てて騒ぐような事でもない気もする。
ついでに言うとハートマン軍s
「音の三倍の速さで」 >十二巻P63
「求める国」で公開銃殺刑が行われる際、使用されるパースエイダーの初速を言い表した表現だが、通常の軍用ライフルの初速は平均して800m/s前後であり、音速の三倍(≒1000m/s)というと50口径の対物ライフルでもない限り発揮できない。
弾丸が赤く着色されていた可能性もあるが、定かではない。
「撃ちすぎてヒビ」 >十二巻P234
「幸せの中で・b」に於いて、案内役の男がキノの『カノン』に起こりうる破損として挙げた例。
『カノン』は金属薬莢式ではなくシリンダー自体を薬室として使うため、撃発の際の圧力がそのままシリンダーに伝わってしまう。さらに設計の古さから来る素材の強度不足から、シリンダーが割れてしまう可能性は充分にあり得る。
「違法文章」 >十三巻P78
作中で説明される規定に従うと、まず大方の神話や聖書の類が規制されるはずだが、何の混乱もないところを見ると「違法な国」は無神論者の集まりであると推測される。